特に外資系の企業では、経理業務を国外にアウトソースする例も多いのですが、その際に悩ましいのが消費税に関する記帳です。複数税率が導入されて既に半年以上が経過しましたが、最近でも相変わらずご相談があります。

1「仕入」の処理で悩む

国外へのアウトソースで問題になるのは、売上よりも仕入、つまり支払費用等に関する消費税額の処理の方が多いようです。
売上とその消費税については、自社が発行するインボイスに従って経理処理をすればよく、業務フローの構築にそれほど困難はないのだと思います。
これに対して費用の方は、他から受領した様々なインボイス(ほとんどが日本語)を、海外の担当者が適切に処理できるか、最終的に消費税の税額控除を適用できるレベルで処理を行えるか、ということが頻繁に問題になります。

ご相談の具体例としては、以下のようなものがあります。
・従業員立替経費の処理では、消費税はレシート等に記載の税額をインプットすることで充分と考えているが、問題ないか。(税込金額のみ記載されているレシートの分は、税額が計上されないことになってしまいます。)
・請求書の内容が複雑な場合、国外の入力担当者が税区分ごとの内訳を正確に読み取って処理することができない。

2 考えられる対応

対応を考えるうえで大切なのは、こうした会社では、日本から海外に経理業務を移管することで効率化を目指していることです。
正確な記帳を行うための対応はいろいろありますが、どうすれば極力負担なく、効果的に対応できるのか、それぞれの状況も考慮して決めていくことになります。

つまるところ、問題になるのは消費税の税区分がわかりにくい請求書、レシートです。
イレギュラーな取引は、発生件数が少ないため個別に対応すればよいということになります。
問題になるのは、常時一定程度の件数で発生する取引で、勘定科目を指定してもその税区分(10%課税、8%軽減、消費税なし)が1つに定まらずに混在するもの。
典型例としては、交際費、諸会費、旅費、通信費などと思いますが、国外での支払はレシートなどで容易に判断ができます。
対応に頭を悩ませているのは、国内の諸経費で請求に内訳があるもので、具体的には、サービスの請求に含まれるゴルフ税や宿泊税、そして携帯電話料金の請求書が問題になることが多いです。

あまり時間をかけずにできる対応として、以下のようなものが考えられ、このうちから自社の業務フローに合うもの、効果的に実行できそうなものを選んでいくことになります。

1 日本であらかじめ請求書をチェックし、消費税額等、システムへの正しい入力値を指定する。

2 国外でされた入力結果を日本でレビューし、修正・調整の指示をする。

3 月次では定型的な処理方法を実施し(全て10%、あるいは全て消費税対象外、など)、正しい税額や消費税区分を日本で記録しておき、期末にまとめて修正・調整処理を実施する、あるいは申告調整を行う。

なお、効率化の観点から、こうしたチェック工程は、処理が難しい勘定科目、取引に絞って行うことになります。

並行して、帳簿に計上される消費税額と課税の経費等の額を基礎とした理論値の比較も定期的に行い、差異が誤差としての許容範囲にとどまっているかの検証を行っていくことは有効です。
国外で経理処理を行う場合、会計システムには日本の会計システムにあるような消費税のチェック機能がないことがほとんどなので、定期的に消費税についての検証をエクセルで行っていることも多いと思います。この結果を活用することができます。

3 記帳要件

日本の消費税法では、仕入に係る消費税を控除するのに、記帳の要件があります。
海外の親会社などは、請求書に記載された税額を記帳すればよいという程度の認識を持っているように見受けられ、これは、海外では一般的にVATについてインボイス方式が採用されているためかと思います。
一方、日本では会計帳簿を基礎に税額を計算する方式を採用しており、帳簿に記載されている「課税仕入」の額と税額との整合は、消費税の還付を受ける際や税務調査の際に確認されるポイントとなります。請求書の保存も要件ではありますが、現行制度ではこの請求書に税額の記載が求められているわけではありません。
中小事業者の実務負担に配慮し、帳簿ベースで計算できるように、という日本のルールは、海外のVATの扱いに比べてやや特異なようで、こうした日本のルールを国外の関係者にまず認識してもらう必要もあります。
日本でも数年のうちにインボイス方式へと移行する予定です。記帳要件の規定は引き続き残るようですが、実務的には、シンプルにインボイスに依拠する形になると、処理方法が今より明快になるかもしれません。