信託は、日本ではまだ一般的とはいえないかもしれませんが、それでも取り扱う機会は増えているように感じます。個人の所得税においては、不利な取り扱いもあるため注意が必要です。

信託の課税

税務上、信託財産から生じる収益や費用は、原則として、その信託の受益者に帰属するものとして取り扱われます。(集団投資信託、退職年金等信託、法人課税信託については、取り扱いが異なります。)

不動産所得の損失の取り扱い

上記が原則なのですが、例外的な取り扱いがあります。
受益者が個人であり、信託から生じる不動産所得がある場合、不動産所得が損失となった際には、所得税法上、その損失はないこととされます。通常の不動産所得の損失のように、他の所得と通算したり、翌年以降へ繰り越したりすることはできません。

信託の活用例 家族信託

信託とは、財産の所有者が委託者となり、他者(受託者)に財産の管理や運用を託すもの。財産の所有権を受託者に移転させますが、受託者は信託契約に従ってその管理等を行います。信託財産の経済的な価値は、通常、信託契約で定めた受益者に帰属します。

信託は、日本ではまだまだなじみがないかもしれませんが、「家族信託」が紹介される例はしばしば目にするようになっています。典型的なのが、認知症への対応としての利用です。財産を所有する高齢者が認知症を発症して法律行為が行えなくなってしまうことに備えて、意思能力がある間に、信頼できる他者(家族信託では家族)を受託者、自身を受益者とする信託契約を締結するというものです。財産の管理・運用を受託者に行ってもらい、財産から生じる価値は引き続き自分自身が受け取ることが可能になります。

財産を所有する方が高齢である場合に、信託という方法があることをご説明する機会は実際に増えてきていると感じます。
上記のような形式では、財産の所有者が信託の受益者となりますので、信託契約を締結した前後で基本的に課税関係は変わらないことになります。ただし、信託財産からの不動産所得がある場合には、不動産所得の損失が生じた際に例外的な取り扱いがあることに留意が必要です。