取得価額、耐用年数、経過年数、未償却残高は被相続人から引き継ぐ

もともと被相続人が賃貸していた不動産を相続し、引き続き相続人が賃貸の用に供するケースは多いと思います。このような場合、建物の減価償却に際しては、被相続人の取得価額、耐用年数、経過年数、未償却残高を引き継いで償却計算を行うこととされています。

所得税法において、相続(限定承認は除く)や遺贈(包括遺贈のうち限定承認は除く)により取得した資産を相続人や受遺者が譲渡した場合には、この相続人等が引き続きその資産を所有していたものとして計算をすると規定されています(所得税法第60条第1項、所得税法施行令第126条第2項)。
さらに、賃貸用建物を相続して引き続き賃貸する場合についても、国税庁の質疑応答事例において、被相続人から取得価額等を引き継いで償却計算を行うことと説明されています(「相続により取得した減価償却資産の耐用年数」)。

なお、相続や遺贈により取得した資産であっても、限定承認の場合は取り扱いが異なります。

償却方法は相続、遺贈による取得の時期に応じて決定

一方で、減価償却の方法については、被相続人が採用していた方法をそのまま引き継ぐわけではありません。
減価償却の方法は、資産の種類ごとに採用できる方法が税法により定められていますが、この規定は度々改正されており、同種の資産についても取得した時期に応じて採用できる償却方法が異なっています。相続や遺贈により減価償却資産を取得した場合も、その相続や遺贈による取得の時期に応じて、採用しうる償却方法から決定することになります(所得税法施行令120条の2第1項、所得税法基本通達49-1)。

例えば、最近受けたご相談で、昭和62年に取得された建物を平成25年に相続して引き続き賃貸していたケースがありました。被相続人は旧定率法を選定していたようで、建物と建物付属設備が旧定率法で償却されていたことから、資産を引き継いだ相続人もこれに倣って償却計算を行ってしまっていました。平成25年には、減価償却の方法自体が旧定額法、旧定率法から定額法、定率法に変わっていましたし、建物に適用できる方法は定額法のみ、また、建物付属設備についても相続人自身は減価償却方法の届出を行っていませんでしたので、やはり法定償却方法の定額法で償却を行うべきところでした。