今年行った税務申告業務のうち、やや手間取ったのが、急遽お引き受けすることとなった外資系企業の申告で、期首で合併が行われていたというもの。適格合併で複雑なことは何もない、と前任者から引き継がれており、被合併法人の申告書、決算書も確かにシンプルだったのですが、予想していなかった結果が待っていました。
そしてその申告を無事終えたところで、別の外資系企業の税務申告を急遽お引き受けすることになりました。こちらは期中に会社分割を行った分割承継会社です。

コミュニケーションと情報共有の必要性

組織再編は、当事者間で権利義務を包括的に承継させる取引であり、取引実行に際して必要となる情報は膨大です。税務申告に際しては、再編取引自体に関連する情報、会計処理の情報、そして再編取引の相手方の従前の税務関連の情報もふまえて、適用される規定を判断しながら申告していくことになります。

外資系の日本子会社の組織再編をこれまで経験してきた中で、共通の状況としてあったのは、再編取引を親会社が国外で主導して実施し、日本子会社の方では再編取引やその相手方に関する充分な情報が入手できていないということです。そして、実は国外の親会社の方でも、日本でクリアすべき事項の把握が完全ではなく、再編取引を実行したものの、その前後の手続きが未対応であることはかなり頻繁にあります。あるいは再編後の事柄については日本が対応するものと親会社は期待をし、日本子会社は当然に親会社側で対応していると認識をし、そのままコミュニケーションが続いていくということも起きます。

実際に組織再編があった場合には、日本子会社の側からも必要な情報を具体的に挙げて収集していくことが必要になります。再編取引後、早い段階であれば情報収集も容易なことが多く、未対応事項についても取りうる選択肢が存在していることもあります。

組織再編事業年度におけるポイント

組織再編時に確認すべき事項はもちろん個々のケースによるのですが、外資系の日本子会社のケースに共通するポイントとして、以下のようなものがあります。外資系の企業に限らない内容もありますが、こうした事柄の確認に非常に時間を要する傾向があります。

1.  法人税の繰越欠損金の引継または利用制限規定の検討と支配関係の推移の把握
組織再編時に、税務関連で必ず確認するのがこの点でしょう。
ただし、法人税の繰越欠損金関連規定は複数あり、その内容も複雑です。欠損金については確認済み、と伝えられた場合も、具体的にどの規定について検討したのかは必ず確認すべきところです。明確な判断根拠が示されない場合は日本側である程度の検討が必要となり、まずは再編の当事者間の支配関係の推移を把握するところから始めます。

2. 組織再編時の税務手続き、税務関連の引継情報の共有
組織再編が行われた場合、税務当局へその事実の届出が必要で、状況により、一定の期間内に、移転した資産・負債等に関連した届出、申請が必要なこともあります。実際に提出した書類の控を収集して、対応状況を確認します。
また、組織再編で移転を受ける側は、相手側の過年度の税務申告の内容を引き継いだり、考慮したりする必要があるため、相手側からそうした情報の提供を受けることも必須です。

3. 会計上の再編受入処理
外資系の企業で特に留意すべきと思われるのは、日本の税務申告の前提として、組織再編の受入処理は日本基準の会計帳簿に基づいて行う必要があるということです。
外資系の日本法人の場合、グループ内のレポートや連結の目的で、外国の会計基準で作成している帳簿と、日本の会計基準で作成している帳簿の2種類を持っていることが多いです。この場合、再編受入処理も、外国基準、日本基準、それぞれの会計帳簿で行うことになります。特に、組織再編で移転を受ける側は、相手側の日本基準の決算書の内容も早めに確認しておく必要があります。